賃上げ税制は脱法的な抜け道を許さず一人一人の実質的な給与賃金の引上げにつながる取り組みを 衆議院議員 きいたかし 福岡10区(北九州市門司区・小倉北区・小倉南区)
2021年12月15日 衆議院予算委員会
○城井委員
続きまして、賃上げ税制について、総理並びに財務大臣にお伺いいたします。
長らく続いた実質賃金の上がらない状況を打破する意味でも、給与、賃金を上げていく政策には賛成をしたいと思っています。
我々立憲民主党からも、中小企業への支援を前提にした最低賃金の引上げを提案済みで、社会保険料負担軽減という具体策も示しています。
今回の賃上げ税制は、与党税制改正大綱によりますと、継続雇用者の一人当たり給与の増加が要件になっており、非正規も含めて全雇用者の給与総額の増加を対象としていますが、この賃上げ税制がその意図とは異なる方向で脱法的に使われる可能性があるのではないかということを心配しています。
以下、政府にただしたいと思います。
まず、当該年度で心配なケースが2つ想定されます。
1つは、一部社員だけ給料を上げて、給与総額を引き上げるというケースです。
継続して雇用する人の給与総額を基準とすることで、見た目の給与総額をそろえる企業が出てくるケースがあり得るんじゃないか。
特に、成長している企業ですと、引き抜かれては困る社員の給与だけを大幅に引き上げるんじゃないか。
一方で、正社員さんや非正規社員の賃上げはコストが増えると考える経営者からすれば、一般社員の給与水準を一度上げてしまうと下げるのは難しいという発想に立つということだと。この税制を目の当たりにすると、成長している企業の経営者は、まず格差を広げて給与総額を増やす方向に動く可能性、あるんじゃないかというふうに考えます。
この一部社員だけの給与大幅引上げで継続して雇用する人の給与総額の要件をクリアする場合は、対象に入れますか。
財務大臣、お答えください。
○鈴木国務大臣
結論から申し上げますと、税制措置の適用対象となります。
(城井委員「なる」と呼ぶ)
はい。
ちょっと詳しく述べますと、今般、大企業向けの賃上げ促進税制の適用の判定に用いられる継続雇用者とは、前期から当期にかけて、毎月給与を支給されている雇用者のことでございます。
したがって、城井先生御指摘のとおり、一部の社員のみの給与を引き上げた場合でも、その一部の社員を含めた継続雇用者全体の給与総額が対前年度比で3%以上増加をしていれば、税制措置の適用対象となります。
しかし、企業は、税制だけでなく、事業の業績や従業員の能力評価、モチベーションの維持など、様々な状況を踏まえた上で雇用者の賃上げをどうするかという判断を行うもの、そう理解しておりまして、御指摘のような事態はなかなか生じないのではないか、実態的に、そう思っております。
○城井委員
財務大臣の認識は少し甘いと思っています。
経営者の方々の方がシビアに見ていると思います。
ほとんどの社員の給与を上げない形でもしメリットが得られるならば、この税制の仕組みを使うケース、あり得ると思います。
次に、もう一つ御指摘を申し上げます。
もう一つのケースは、退職金を前払い退職金に置き換えるケースです。
給与総額の定義では、前払い退職金も給与総額に含まれます。
前払い退職金制度とは、退職金相当額を給与に加算して支払うという制度。
社員から見れば、毎年の給与が増えて、そして、退職時の支払いが減ります。退職金は制度上、給与総額には本来含まれないというふうに考えますが、前払い退職金に制度変更すれば、給与総額は増えます。
そうすると、この制度を使うと、社員の実質的な処遇は変わらない、でも賃上げ税制のメリットは得られると考えるんじゃないか。
この指摘に政府がどう答えるか。
このやり方を見逃すのか。
財務大臣、お答えください。
○鈴木国務大臣
御指摘のとおり、今のような場合につきましても、税制措置の適用の対象となります。
仮に、退職金を給与として置き換えた場合も、その結果として、継続雇用者全体の給与総額が対前年度比で3%以上増加していれば、適用対象となるということでございます。
しかし、退職金を給与に置き換えた結果、従業員の所得税の負担が一般的に重くなる、そのことに加えまして、従業員、企業の双方に社会保険料負担が発生することにもなる、そのように思います。
また、退職金を給与に置き換える場合には、企業における制度を変更する必要や、雇用主と従業員の間においても一定の手続を経る必要のあるケースが多いのではないかと理解をしております。
こうしたことから、賃上げ促進税制の適用を受けるために退職金を給与に置き換えることは、企業にとってのコストや労力がかかるものでありまして、こうしたこともなかなか想定しづらいのではないかと思っております。
○城井委員
今回、控除割合が増えていますから、そこを含めての計算が立つのかどうかというのは、経営者はシビアに見てくるというふうに考えています。
もう2つ、御指摘申し上げます。
当該年度はないんですが、次の年度以降に心配なケースが2つあります。
1つは、外部発注を非正規雇用などで会社の内部に取り込んでしまうケースです。
業績が停滞している大企業の経営者の場合、優秀な社員に上乗せする賃金の原資がないため、賃金を上げない形で従業員の給与総額を増やす、上げる方法を模索するんじゃないかという指摘があります。外部発注を切って非正規雇用に置き換える方法がある、これは政府でちゃんと考えていただいたでしょうか。
継続する雇用者の給与総額ということで、もし仮に引っ張り込んでも、その新規採用で増やした部分はその年の税額控除にはプラスにはなりませんが、継続的に外注を非正規雇用に置き換える、外注を非正規雇用に置き換えるということでその年その年で増やしていきますと、継続社員の給与総額は次年度以降は少しずつ増えるということができます。
具体的に、本来外注でなくてもできそうな業務を非正規従業員に切り替えていくことで達成できると考える経営者の可能性を政府がちゃんと考えてくれているか、財務大臣、お答えください。
○鈴木国務大臣
今般の大企業向けの賃上げ促進税制の適用の判定に用いられる継続雇用者は、前期から当期にかけて毎月給与を支給されている雇用者であって、当期に新規雇用された雇用者は対象には含まれません。
その上で、企業が税制の適用を受けるためには、継続雇用者全体の給与総額が対前年度比で3%以上増加する必要があります。
こうしたことから、外部発注している業務を内製化しただけで税制措置が受けられるわけではありません。
○城井委員
財務大臣、内製化した場合に、超えてくるケースは全くないとお考えですか。
○鈴木国務大臣
先ほど申し上げましたとおり、外部発注している業務を内製化しただけで税制措置が受けられるわけではないということであります。
○城井委員
給与総額が増える場合を想定してお伺いしているわけですが、今申した方法で給与総額が増えて対象に入るというケースがあるのかないのか、お答えください。
○鈴木国務大臣
つまりは、内製化して、その翌期の賃上げが必要であるということでありますので、内製化しただけでは税制措置が受けられるわけではないと申し上げたところであります。
○城井委員
その次の年度に適用になるかどうかということを伺っているわけですが、今の話だと、入ってくるという認識でよろしいですかね。
○鈴木国務大臣
賃上げすれば入ってくるということであります。
○城井委員
もう一点、翌年度、次年度以降に関わるケースについて御指摘を申し上げます。
毎年小さな会社を経営統合して給与総額を増やすというケース、あるんじゃないか。
継続する雇用者の給与総額が増える形で、毎年、先ほどの、四%を目指して、給与総額が増えるように、健全な企業、小さな企業をM&Aしていくということがあり得るのではないか。このことを政府でちゃんと検討してくれているでしょうか。
グループ会社に安い人件費の会社をつくって利益をそこに集めるようにして、次年度以降は継続する雇用者の数が増えるということ、この可能性を考慮すべきじゃないか。
このやり方、政府として認めるんでしょうか。
これ、ありでしょうか。
財務大臣、お願いします。
○鈴木国務大臣
M&Aによる企業再編が発生した場合でありますけれども、M&Aが行われた事業年度において税制の適用が受けられるかどうかの判定に当たっては、合併後に消滅する企業で雇用されていた者は含まれないというふうに考えております。
したがって、企業が御指摘のケースのようにM&Aによる企業再編を行っただけでは、賃上げ促進税制の適用が受けられるわけではありません。
○城井委員
その年度は、今の大臣の説明だと思います。私が心配しているのは、その次の年度です。
その次の年度は、もう既にその会社の中の人という計算になるはずですから、当然含まれて、給与総額は増えるという計算ですよね。
○鈴木国務大臣
それは先生の御指摘のとおりでございまして、企業再編をして、翌期に賃上げして継続雇用者としての全体の給与が3%以上のものと増加されたことになれば、適用になります。
○城井委員
総理、お聞きのとおりでございます。
4つの、あえて抜け道というふうに表現しますが、このことで、本来は一人一人の給与を上げたい仕組みのはずなんですが、その趣旨が届かずに、もしかすると、給与総額やあるいは平均値は上がるかもしれない、でも、一人一人が上がっているか、処遇が改善されたかということとは違う観点で仕組みが使われてしまう可能性をとても心配しています。
今、4つ言っただけで、3つプラスアルファになるかもしれませんが、ほぼ使える、やれてしまうということが明らかになったところです。
総理、この抜け道、使わせないことが必要だと思いますが、どのように対応されますか。
○岸田内閣総理大臣
まず、委員御指摘のように、一人一人の賃金が上がる、こういった結果につなげることが大事であると認識をいたします。
そして、今御指摘の賃上げ税制ということについても、委員の御指摘、そういった可能性については否定するものではありませんが、そもそもこの賃上げ税制についても、様々な点、できるだけ結果につながるようにということで、今回は継続社員を対象にするなど工夫を加えたところであります。
加えて、賃上げ税制と併せて、下請関係、大企業と中小企業との適正な利益配分ですとか、あるいは、補助金における特別枠を設け、赤字企業に対する配慮ですとか、それから、国が率先して公的価格を引き上げ、民間に対する呼び水とする、さらには、民間企業、来年の春闘に向けて回復企業に対しては3%の賃上げをお願いするなど、社会全体で一人一人の賃上げにつながるような仕組みを用意するというのが大事だと思います。
御指摘の点、これは重要な指摘だと思いますが、一人一人の賃上げが実現するために様々な仕掛けをつくり、そして何よりも、社会全体として賃金、給与を引き上げるという機運をつくり上げていくことが大事であると考え、それを、一つ一つを丁寧に取り組み、進めていきたいと考えます。
○城井委員
総理、機運では困る。
きちんと届かなきゃいけない。先ほどのように、かえって格差が広がる形や、処遇が改善されないのにルールをクリアしてしまうような抜け道を見逃していては、機運だけでは届かないというふうに思いますので、一人一人の賃金、給与が実質的に上がる仕組みとなるように取組を徹底いただきたいと思います。
本当は、今日は半導体のお話ですとかGIGAスクールの関係の質問も準備しておりましたが、時間がなくなりましたので、また改めての機会をいただければと思います。質問を終わります。ありがとうございました。
衆議院議員 きいたかし 福岡10区(北九州市門司区・小倉北区・小倉南区)