国は少人数学級の効果について長期・大規模調査をすべきだ 衆議院議員 きいたかし 福岡10区(北九州市門司区・小倉北区・小倉南区)

 

【少人数学級化、40年ぶりの「前進」】

202012月、「令和3年度から学級編制基準を小学校2年生から6年生について5年間かけて40人から35人にすること」について文部科学大臣と財務大臣で合意した。

35人以下への少人数学級化を推進することとなったのである。

学級編制基準の変更は実に40年ぶりである。

 

少人数学級の推進についてはこれまでも長らく政府内でも賛否があったが、私自身は、今回の少人数学級の推進は大きな前進であると考えている。

少人数学級の効果として、新型コロナウイルス等感染症の影響を最小化するためのソーシャルディスタンスの確保に加え、個性・特性に合わせた教育の実施や学力の底上げ、インクルーシブ教育の実施を後押しする効果があると考えているからだ。

多くの教育現場や地方公共団体、経済界、与野党からも賛同の声は大きい。

しかし、少人数学級の効果の有無について明確な裏付けが文部科学省からも財務省からも示されないまま、「学力向上、不登校やいじめ、発達障害等への対応にあたる教員増の必要性」など教育上の理念から意見する文部科学省と「子どもが減少するから教員も削減するべきだ」とする財務省の議論は平行線の一途だった。

少人数学級の効果に関する調査研究での明確なエビデンスはないのか。

少人数学級の効果をめぐる研究について、その数と効果・影響に関する結論の傾向について改めて調査することとした。

関連する資料収集を202011月に国立国会図書館に依頼、以下その結果の概要をまず紹介する。

 

 

【海外、特に米国では】

まず、海外での研究事例とその結論の傾向について、1980年代から主要な実験データが蓄積されてきた米国の調査事例の中では、星野真澄『アメリカの学級規模縮小政策:カリフォルニア州に焦点をあてて』(多賀出版、2015)によれば、2015年までで米国の教育情報データベース(ERIC)での検索では学級規模縮小に関するキーワードで357件の論文がヒットし、うち320件以上が1980年代以降の発表論文であるとされている。

特にカリフォルニア州の施策が多く取り上げられている。学級規模縮小によって効果を得られることを明らかにした論文が多数ある。

一部に学級規模縮小と学業成績の関係は単純ではないことを指摘している。

 

山崎博敏編著『学級規模と指導方法の社会学:実態と教育効果』(東信堂、2014)によれば、経済学からの研究では、2000年に学力に関する59の文献レビューをもとに学級規模の効果を分析した227件の結果がある。

要約すると件数の実数では効果の統計的有意差のプラスとマイナスは拮抗している。

各論文の引用数(質の指標)を重みづけると学級規模の効果をプラスと結論する傾向が強かったとしている。

 

山下絢「米国における学級規模縮小の効果に関する研究動向」『教育学研究』751)(2008pp.13-23)では、米国における約860本の論文を引用数の多い順に整理して、その中から10本の論文に検討を加えており、以下の内容を示唆している。

①小規模学級で授業を受けた児童生徒のテスト点数は高いと指摘可能である。

ただし、学級規模の縮小効果によるテストの得点の差の大きさについては論者によって結果が異なり、一致した結論に至っていない状況である。

②学級規模の縮小政策の費用対効果については結論に至らず、今後の検証の課題とされている。

③効果が顕著にみられる対象は、マイノリティや低所得家庭の児童生徒である。

 

 

【日本では】

日本での研究に関する調査結果については以下の通りである。

 

助川晃洋「学級規模に関する実証的研究の方法と結果―少人数学級(30人学級)について議論するための前提として―」『宮崎大学教育文化学部紀要 教育科学』(16)(2007pp.1-18)において、2000年以降に23件の主要なレビュー行われていたが、これらは方法論上の偏りが見られるとしている。

また、大規模調査研究の結果報告の中から代表的な3つを取り上げ、「きわめて大づかみに言えば、少人数学級の実現が求められており、その規模としては、30人を上限として、20人台であることが望ましいと考えられる。」との分析を示している。

 

これより新しい研究としては、平成22年の文部科学省の有識者ヒアリングでの報告(「今後の学級編成及び教職員定数の改善に関する有識者ヒアリング」第1回(2010.4.19)、第2回(2010.4.27)、第3回(2010.5.12)(いずれも文部科学省ウェブサイト))がある。

国立教育政策研究所における調査研究では、妹尾渉・北條雅一・篠崎武久ほか「回帰分断デザインによる学級規模効果の推定:全国の公立小中学校を対象にした分析」『国立教育政策研究所紀要』1432014.3pp.89-101)や妹尾渉・北條雅一「学級規模の縮小は中学生の学力を向上させるのか:全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した実証分析」『国立教育政策研究所紀要』1452016.3pp.119-128)がある。

 

北條雅一「少人数学級の効果(特集 データで測る教育の効果)」『経済セミナー』(682)(2015.23pp.34-39)においては、日本のデータを用いた教育経済学の分析では、少人数学級による学力向上効果は、あったとしてもそれほど大きくはないことを示す検証結果が多いとしている。

財政審議会での少人数学級拡充の議論で財務省側が少人数学級の効果がないか大きくない論拠として用いていたが、財務省自体がこの内容を検証せずに参考資料として提示したことを衆議院議員城井崇事務所からの問い合わせに答えている。

さらに、海外の先行研究から得られた知見を基に、日本の政策を論じることは適切ではない、との意見を示している。

40人から35人への縮小を議論している日本において、20人を下回る少人数学級の効果を検証した海外の知見は、少なくとも現段階ではあまり参考にならないだろうというのが理由である。

 

また前掲の山崎博敏編著『学級規模と指導方法の社会学:実態と教育効果』(東信堂、2014)では、心理学と経済学の領域における研究結果を検討、「両者には大きな隔たりがあり、日本では、心理学者による実験的研究はみられるが小規模な実験が多い。(中略)大規模な調査データに基づく実証研究は少ない。今後、大規模なデータに基づく厳密な統計的手法を用いた心理学的な実験研究や社会学的調査研究が必要であろう」との示唆があった。

 

 

【少人数学級の効果に関し、長期・大規模の調査研究を国として行うべきだ】

今回の少人数学級の効果に関する調査研究の内容を調べてみて感じるのは、文部科学大臣と財務大臣で合意した「令和3年度から学級編制基準を小学校だけ5年間かけて40人から35人にすること」によるわかりやすい効果や影響の実証自体は示されていない、類似の調査研究はあり子どもにとって前向きな効果・影響が強く推定されるが裏付けとして十分なものではない、ということである。

逆に少人数学級の効果に疑問を投げかける財務省においても、少人数学級の効果はないか大きくないということを国民に明示できるだけの裏付けを持っていない点も明らかになっている。

 

このことを踏まえ、我が国においては、令和3年度から5年間かけて小学2年から6年までを35人以下学級化していくタイミングを用いて、35人以下学級の教育上の効果・影響を長期かつ大規模な調査研究を行うべきであると考える。この調査研究を踏まえて、今回結論先送りとなった中学校以降の少人数学級化の是非について国として結論を出してはどうか。

 

衆議院議員 きいたかし 福岡10区(北九州市門司区・小倉北区・小倉南区)