原子力損害の賠償に関する法律改正案・参考人に対する質疑 衆議院議員 きいたかし 福岡10区 (北九州市門司区・小倉北区・小倉南区)
2018年11月20日 衆議院文部科学委員会
○亀岡委員長
次に、城井崇君。
○城井委員
国民民主党の城井崇です。
野村先生、河合先生そして大坂先生、本日は急なお呼びかけにもかかわらず、参考人としての御協力ありがとうございます。
私からも、今回の法改正の議論に当たりまして、本来、先取りをしてやるべき、見通しを持ってやるべき議論を、少し提案への議論の詰めも含めてお伺いできればというふうに思っております。よろしくお願いいたします。
まず、私から冒頭は、この原子力賠償についての責任のあり方についてそもそも論を、お三方からそれぞれに御確認をさせていただきたいと思っております。
政府は、国がこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることを踏まえ、国の責任を明確化することの必要性について検討し、必要な法制上の措置を講じるべき、こうした考え方を、今、国民民主党で議論しております。
この国の責任の明確化という部分について、お三方からそれぞれお考えをお聞かせいただければと思います。
○大坂恵理参考人(東洋大学法学部教授)
御質問ありがとうございます。
責任のあり方につきまして、今、社会的責任というふうにおっしゃっていただきましたけれども、今般の福島原発事故につきましては訴訟も起こっておりまして、その中の大部分でやはり国の責任も問われているということになっております。
ということで、まだ七判決、集団訴訟ですか、の一審判決が出たばかりでございますけれども、五つの国の責任を問う判決のうち四つですね、責任が認められるということになっておりまして、こちらで最高裁まで上がっていって確定したというときには、今般の福島原発事故につきましては、社会的責任だけではなくて法的責任の観点からも考えるべきだというふうに思っております。
ただ、今回の原賠法改正につきましては、これは将来の事故ということになりますので、やはり先生が御質問にいただいたように、社会的責任を明確に記載するということは非常に重要だというふうに思っております。 以上です。
○河合弘之参考人(さくら共同法律事務所弁護士)
私は、日本の原発の歴史というのは国策民営だったと思うんですけれども、国の政策を民間会社が推進するということの基本的なねじれというのが、福島原発事故以降、露見しているんだというふうに思います。
今の時点での国の責任というのは何かというと、原発を早くソフトランディングで収束させて、そのために、電力会社に必要以上の負担がかからないようにいろいろな方策をしていくことだというふうに思います。
それは、会計上もいきなり損金が出ないようにするとか、それから新しい産業を地元に供給していくとか、そういう方法によって、国の社会的責任、今まで国策民営でやってきたことのゆがみを正す責任がある。
そういう形で国の責任があるんだというふうに思います。 私は、事故が起きたときの手当てをこうやって原賠法の問題で真剣に処理をするよりも、もうそんな原子力損害賠償をしなくてもいいような、要するに、そういう事故が起きないような体制に持っていくのが国の責任なのではないか、それこそが国の責任なのではないかというふうに考えています。
○野村豊弘参考人(日本エネルギー法研究所理事長)
損害賠償に限定すると、恐らく原賠法の十六条、十七条に、国が必要な措置を講ずるとか、援助をするということになっています。
ただ、これは非常に抽象的ですね。
だから、その中を具体的にどういうふうにやっていくのか。
確かに、日本も、今まで余り具体的なイメージを持っていなかったと思うんですね、これは諸外国もそうなんですけれども。
しかし、一旦福島事故が起きて、かなり具体的なことがわかるようになってきたので、そこで、どういうことを国がすべきなのかということを考えるべきじゃないかと思うんですね。
それからもう一つは、重要なのは、CSC条約に加入したということなんですね。
一応、国際的な原則に従っているということで、日本で今、地裁レベルですけれども、国の国家賠償責任を認めた判決が出ているわけですけれども、こういった判決については、なかなか外国からは理解されていないんですね。
責任集中等の関係はどうなるんだろうかということなんです。
それで、福島事故は、ある意味では、CSC条約加入前なので、条約のことを考えないで自由に裁判所が判断できるということだと思うんですけれども、これから先は、そういう条約との整合性をどういうふうに考えながら国として判断していくのかということが重要になるんじゃないかというふうに思っております。
○城井委員
ありがとうございました。
原子力事業者への責任の集中という法律の考え方はあるにしても、その部分を踏まえながら、どこまでぎりぎりまで詰めていけるかという部分でのこの議論を今我々としても行っているところでございました。
ありがとうございました。
続いて、賠償金額の引上げの件について、野村先生に少し突っ込んだところをお伺いしたいと思います。
本日の質疑に当たりまして、先生の書かれた、二〇一五年の商事法務に掲載された、原子力賠償制度の概要という論文を拝読いたしました。
その中で、原子力損害賠償支援機構による援助についてのくだりがございました。
この点でお聞きしたいことがあります。
先ほども外国からの関心の話は触れていただきましたが、ここでも、原子力損害賠償法、福島の事故、その後の新たな措置について外国から大きな関心を持って見られている、原子力損害賠償支援機構による援助が外国で非常に問題になっているのは、日本の事故を見ていて、損害賠償の限度額及び損害賠償の措置をカバーしている保険の金額が余りに小さ過ぎて意味がないのではないかということです、それから、保険について、どのように原子力事業者の事業活動と保険の全体としてのキャパシティー能力とを調整していくかは今後の課題、こうした言及でございました。
現実的な視点かというふうに受けとめております。
この間、私どもも、原子力事業者等、聞き取りを実施してまいりました。
事業者の側からの話によりますと、一千二百億円からの引上げを仮に法律として決めていただく、方針が出るということになりますと、その分はその分で受けとめながらで、保険の会社などとのやりとりをしながらで対応していくという気持ちはある、こうしたお話でございました。 一千二百億円で打ちどめという話ではない、その部分は事業者としての受けとめはあるぞというお話を聞き取りで聞きまして、かなり意外な感じがいたしました。
政府からの説明は、国際市場を見てもいっぱいいっぱいでございます、国としても、一千二百億円を超える分は仕組みとしてしっかり準備をいたして万全でございます、こういった説明だったわけでありますが、むむっと思ったわけであります。
福島の事故の実際の賠償額、聞き取りの段階では、実賠償額ベースで十兆円を超える形になってきているというのが最新の聞き取りでございました。
そうした中で、一千二百億円の賠償金額が本当に適当な金額で、いっぱいいっぱいの上限なのかということ。例えば、地震の再保険での賠償金額の上限は一千七百億円だったりします。
そうしたことも踏まえて、今、国民民主党でも議論を行っております。先ほど御指摘の外国の実例やあるいは声なども踏まえて、今後どのような形にしていけるか。引上げの部分での現実的なところ、事業者がそう言っているということを踏まえましたら、少し努力のいとまがあるのではないかというふうに思うわけですが、この点の受けとめ、いかがでしょうか。
○野村豊弘参考人(日本エネルギー法研究所理事長)
保険は、先ほど申し上げましたように、日本に保険プールというのがあって、各国に同様の組織があって、その間で再保険という仕組みを使ってリスクを平準化するというか、しているわけですね。
したがって、保険業界としてどこまでが受入れ可能かというのは、民間の保険ですので、どうしてもビジネスの世界ですので、例えば一兆円とこちらが要求しても、向こうはやはりノーと言わざるを得ないところがあるわけですね、受けられないということになるわけですので。
私個人の考えでは、保険にはやはり限界があると考えざるを得ない。上げる努力はもちろん必要だと思うんですね、それは交渉マターですから。
ただし、先ほども申し上げたように、事業者の相互扶助とか、あるいは最終的に国が負担するのかとか、その辺の全体的なスキームというのを考える必要があるんじゃないかというふうに思っております。
諸外国でも、特にヨーロッパでは、有限責任をとっている国が多いわけですけれども、有限責任をとりながら、なおかつ被害者の保護はきちんとするということをよく言っていますので、そうすると、そのギャップは国が埋めるということになっているわけですね。
ですから、いかに被害者の保護を完全にしながらその資金をファイナンスしていくかということで、全てを保険に頼って解決しようというのはなかなか難しいんじゃないかというふうに思っております。
○城井委員
では、河合参考人、お願いします。
○河合弘之参考人(さくら共同法律事務所弁護士)
ありがとうございます。
先生の、業者に聞いたら、いや、もっと上がったってそれはそれなりにやるよと言っているということは物すごく重要なことで、僕は八兆六千億にしろと言っていますけれども、それが無理なら、じゃ五千億にしようとか一兆にしようとか、ちょっと上げる努力を当局はしたのかということですよね。
今回の案は、要するに、オール・オア・ナッシングなんですよ。
上げるか上げないか、千二百億据置きなのか据え置かないのか。
オール・オア・ナッシング、そんなことでいいんですかと、僕はすごくいい問題点を突かれたと思います。
せめて三千億にするとか五千億にする、そういう試みを何でしないんだ。
それは、本気にこの問題に向き合っていると言えるのか。
僕は、当局が、立法と担当者が事業者にそんたくし過ぎていると思う。
言わない方がいいよね、言ったって反撃されるよねと思って千二百億で据え置いたとしか思えない。
実際に城井先生なんかが当たって、国民民主党が当たってみたら、いや、そうではないよ、それはそれなりに努力するよ、これがやはり実態だと思うんですよ。
だから、そこを踏まえて、ぜひ考え直してもらいたいなというふうに思います。
○城井委員
ありがとうございました。
これまでも賠償金額の引上げは倍々で来ています。
一千二百億円から例えば二千四百億円にした場合に保険が組めるかどうかという議論が、今のところまだ進んでいないというふうに実感をしています。
実際に組むときにどうかという議論、課題として指を指すところからもう一歩前に出て、これを組み上げていく努力、それを組み上げている時間がかかるならば、その間は国が、政府が責任を持って支えるという仕組みがあれば十分前に進めるはずだというふうに考えております。
さて、時間もなくなってまいりましたので、最後の質問になろうかというふうに思いますが、河合先生と大坂先生に一点確認をというふうに思います。
原子力賠償制度における国の措置のあり方についてであります。
原子力賠償請求に係る訴訟については、被害者の迅速な救済を図る観点から、先ほど野村参考人からも言及がありましたが、アメリカのクラスアクションのような団体訴訟制度の導入については政府は検討すべき、こうした意見があることを承知しております。
国民民主党におきましても、この国の措置のあり方等ということに検討を加える必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとすることという意見がありまして、このクラスアクションのような仕組みを念頭に置いた考え、先生方から、いかにお考えか、お聞かせください。
○大坂恵理参考人(東洋大学法学部教授)
御質問ありがとうございます。
クラスアクション、先ほど集団訴訟のお話をしましたが、現在三十ぐらいの集団訴訟が提起されておりますが、それぞれの判決を被害者の方たちが待っている状況ということになっておりまして、なおかつ、それぞれの裁判所で出す判決の内容も、当然、被害者の属性も違っておりますのでいたし方ないところもございますが、結果としてそれぞれの被害者に差がついてしまうということになってしまっております。
やはり被害者の多くの方が言われるのは、例えば避難指示区域内の中でも差がある、なおかつ区域内か区域外でも差があるということで、我々、同じような被害を受けているのにということで非常に残念に思っているということをよく聞きます。
クラスアクションは、一律的な訴訟というか、集団的な解決になりますので、原発に限らないのかもしれませんが、多数当事者がかかわっている、被害者が発生するような災害、事故におきましては、そういった紛争処理の仕方も必要だというふうに私は考えております。ありがとうございます。
○河合弘之参考人(さくら共同法律事務所弁護士)
原発被害というのはクラスアクションに非常になじむ質の被害だというふうに思いますので、基本的に賛成です。 現に、ロナルド・レーガンで海兵隊の人たちが被曝をして、いろいろな病気が発生していることについて、カリフォルニアで既にクラスアクションが起こされております。
ですから、原発被害についてクラスアクション制度を使うということは決して荒唐無稽なことではなくて、アメリカで既に始まっております。五百億だかの損害賠償基金をつくれ、治療を十全ならしめろ、それから、損害賠償を十全ならしめろ、そういう申立てがあります。
立法する際にはそれの帰趨もよく見ながらつくると、いい立法ができるのではないかと思います。
○城井委員
ありがとうございました。
終わります。
衆議院議員 きいたかし 福岡10区