資料集国会質問議事録

不登校全般の現状把握と対策について

第162回国会 衆議院文部科学委員会会議録第2号(平成17年02月23日)より抜粋

(前文略)

○斉藤委員長 城井崇君。

○城井委員 民主党の城井崇でございます。我が党から本日最後のバッターとなります。引き続き、よろしくお願いいたします。
 まず、私からも、先日の寝屋川市における小学校で起こりました痛ましい殺傷事件で犠牲になりました、先生とそしてその御家族に心からお悔やみを申し上げるとともに、負傷された皆様に対しても心からお見舞いを申し上げたいと思っております。
 さて、まず冒頭、私からもこの寝屋川市での殺傷事件について少し触れておきたいと思います。
 容疑者は十七歳の卒業生の方だと聞いています。もちろん、先ほど御指摘もございました学校安全の面からの検討を改めて十分に行わなければならないということは、言うまでもないと思うわけですけれども、今回のこの事件、問題には、検討すべきもう一つの点があると思っています。
 それは、容疑者本人の不登校の影響であります。これまでにも不登校の経験があるという報道がなされております。これまでの不登校への対応はどうだったのか、本人の状況把握はどうなっているのか、実際に親御さんがどういう相談をどこでしたのか、どこで指導を受けたのか。
 不登校の専門家によりますと、不登校というものは、特に始まった当初、初動段階での対応が重要だと言われております。報道によりますと、今回の場合、中学二年で不登校となり、昨年、思春期外来で心理カウンセリングを受けるまでの間がそれに当たると思います。
 この初動段階について、そして不登校自体が今回の事件に影響があったかという点について、文部科学省そして関係各省に対しまして、しっかりとした状況把握と対応をお願いしたいと考えております。よろしくお願いいたします。
 それでは、本題に入ります。本日は、まず、先ほど触れましたいわゆる不登校全般の現状把握と対策についてお伺いしたいと思います。
 文科省によりますと、平成十三年以降は不登校の児童生徒数が低下傾向にあると言っております。この低下の理由、一体どういうところにあるのかとお考えか、まずお聞かせください。

○中山国務大臣 不登校の子供が減っている、その理由はどういうことかという御質問だと思いますけれども、平成十五年度の国公私立の小中学校における不登校児童生徒数は、約十二万六千人、対前年度約五千人減、三・八%減ということでございまして、平成十四年度に引き続き二年連続で減少しております。
 この不登校への対応につきましては、これまで児童生徒が楽しく安心して通える、不登校を未然に防止する学校づくりとか、あるいはスクールカウンセラーの配置等による教育相談体制の充実、地域の不登校施策の中核的役割を担う教育支援センター、適応指導教室の整備充実などの取り組みを進めているところでございます。
 さらに、平成十五年三月、協力者会議の報告におきまして、早期の適切な対応の重要性や提携ネットワークの構築などの提言がなされたことを踏まえまして、学校や教育委員会等の関係者によるさまざまな取り組みが行われてきたところでございまして、その成果が定着しつつあるものと考えているわけでございます。
 しかし、まだまだ不登校の児童生徒数は依然として相当な数に上っておりまして、教育上の大きな課題であると考えておりまして、今後とも、不登校に関する施策の着実な推進に努めてまいりたい、こう考えております。

○城井委員 今、大臣からも、成果は定着してきたというところもあるけれども、まだまだということでございました。私も全く同感でございます。先ほど御指摘いただきました数字を含めまして関係をする統計、記者発表分ということになりますけれども、私も見せていただきました。
 その中で、幾つか気になる点がございます。その一つは、登校か不登校かの中間点、いわばグレーゾーンと言えるかもしれませんけれども、その部分に当たる子供がどうなっているかということであります。
 例えば、先ほどの御説明には出てきませんでしたけれども、保健室登校。保健室登校しているお子さんがいらっしゃいますが、文部科学省に伺いますと、この保健室登校の子供さんは、先ほど大臣がおっしゃいました約十二万六千人という数の中には数えていない、含まれていない、入っていないということでございました。これは一体どういうことなのかと思うわけであります。
 保健室登校という状況ということを考えますと、まだ問題に対処している途中ではないかと考えるわけであります。にもかかわらず、統計からすっぽりと抜け落ちてしまっている。ある意味で、問題の実態と統計がかけ離れてしまうんではないかということを非常に心配をします。
 それと、もしかすると、保健室登校は問題解決の認識というわけではないというふうに懸念をするわけですけれども、この点、大臣の見解をお聞かせください。

○中山国務大臣 いわゆる保健室登校については、学校に登校しているとはいえ、教室で授業を受けたり集団活動に参加できる状態にあるわけじゃありませんで、学校生活における適応が十分なされているわけではないと認識しております。
 ですから、これは不登校じゃない、登校だというふうにするにはちょっと問題がある、このように思っているわけでございますが、じゃ、これは不登校かというと、学校には来ているわけでございますから、どのように分類し、考えるかという問題だろうと思うわけでございます。
 不登校傾向の児童生徒にとりましては、養護教育による健康相談がよりどころとなったり、あるいは不登校であった児童生徒が学校復帰のきっかけとして、まず保健室登校を始めて徐々に学校生活になじんできた、あるいは保健室が不登校児童等の居場所としての存在になっている、役割は非常に大きいと思うわけでございます。
 不登校の原因というのは、その背景はいろいろあると思うんですけれども、それらを抱えながら学校復帰の努力を続けている不登校児童生徒等が、それぞれの状況に応じて何とか学校生活に適応したいという、そういう努力ができるように、今後とも保健室や相談室など学校内におけるいわゆる居場所を充実させ、不登校児童生徒の状況の改善、そしてそれが不登校生徒の数を減らすというふうにつなげていきたい、このように考えております。

○城井委員 今後ぜひ、いわゆる不登校状態にある子供というところをとらえる統計だけではなくて、不登校状態から抜け出しつつある、保健室までたどり着いているという子供を含めて、不登校に対する対策の対象となっている子供たちについて、きちんと我々から見ても把握できるような形で資料をお示しいただけるように努力をしていただきたいと思いますけれども、大臣、この点いかがでしょうか。

○銭谷政府参考人 私ども、不登校の子供たちの実態の把握についてはいろいろな観点から努めているわけでございますけれども、逐年、その把握の内容や方法についていろいろ改善を加えておりますので、そういう中でいろいろと配慮してまいりたいと思っております。

○城井委員 ぜひお願いしたいと思います。
 今御指摘申し上げました保健室登校に限らず、この不登校という問題の認識は非常に難しいというふうに私も思っています。
 ただ、その中で、先ほど申しました統計を見ておりますと、ほかにも気になる点があります。先ほど御紹介ありましたように、平成十五年度の不登校児童生徒数が十二万六千人ちょっと、よく目にする象徴的な数字ですけれども、この年の「指導結果の状況」を見ますと、指導の結果、登校するまたはできるようになったという児童生徒が三万三千九十四人、指導中の児童生徒が九万九百六十一人ということでございました。ざっと引き算をいたしますと、二千百七十一人、先ほどの全体数から残ってしまうわけなんですけれども、それ以外の二千百七十一人というのはどうなっているのでしょうか。全く手つかず、指導中ではない手つかずということなんでしょうか。この二千百七十一人についての対応の見解をお聞かせください。

○銭谷政府参考人 平成十五年度の不登校児童生徒数十二万六千二百二十六人というこの数は、学校基本調査の不登校児童生徒数でございまして、国立、公立、私立の小中学校の不登校児童生徒数ということになります。
 御指摘の「指導結果の状況」に出てまいります数は、これは不登校児童生徒への指導結果状況の調査の結果でございますけれども、これは対象が公立の学校における不登校児童生徒についてその詳細を調査した数字でございますので、御指摘いただきました二千百七十一人という数字は、公立学校の不登校児童生徒への指導結果状況の調査の対象になっていない国立及び私立の不登校児童生徒ということになります。

○城井委員 そうしますと、今の御説明からしますと、二千百七十一人は国立及び私立の学校における不登校の人数という認識になるわけですけれども、そうなりますと、同様に指導の結果の状況というものは、その二千百七十一人つまり国立及び私立の学校の不登校について、当然指導結果状況というものをつかんでいらっしゃるという認識でよろしいんでしょうか。

○銭谷政府参考人 現時点では、不登校の詳細な実態につきましては公立学校のみを対象として調査をしておりますので、国立、私立の学校の不登校児については詳細な実態把握はできていない状況にございます。
 今後、この国立及び私立の学校の不登校児の実態の調査、どういうふうに進めるのか、これは私ども十分検討していかなきゃいけないというふうに思っております。

○城井委員 これまでも不登校の実態調査、今の基準になってからでも大分たっているわけですけれども、その間に公立学校のみしか対象にしてこなかった。その間にも、国立にも私立の学校にも不登校の子供たちはいたと思うんですけれども、その点を対象にしてこなかった理由を教えてください。

○銭谷政府参考人 実は、こういういろいろ不登校の子供とか問題行動を起こす子供たちの調査というのは、ずっと公立学校を対象に実施をしてまいった。と申しますのは、小中学校は公立学校が圧倒的に多いということもございまして、公立学校を中心に行ってきたというのをずっと引きずってきたということでございます。
 ですから、先ほど申し上げましたように、不登校対策というのは国公私を問わず必要なことでございますので、今後の国立、私立の不登校の子供たちの実態の把握については十分検討していきたいというふうに思っております。
 それから、もちろん、国立、私立の学校におきましても不登校対策がとられていないわけではもちろんございませんで、例えば私立学校におきましても、これは把握している数でございますが、約三百六十人のスクールカウンセラーが配置されているというふうに承知をしているところでございます。

○城井委員 公立学校の数が多い、これまでの中で引きずってきたという御説明であったかと思いますけれども、数が多いというところで傾向とかあるいはその規模というものは大体つかめるかもしれませんけれども、そこからこぼれる子供たちがいるというところを考えますと、ぜひきちんと詳細にすべてをとらえられるようにしていただくように、今後もお願いしたいというふうに思います。
 続いて質問をさせていただきます。
 先ほど取り上げた統計の中にございます指導中としている児童生徒、私はここの対応、対策が一番大事じゃないかというふうに思っているわけですけれども、この指導中としている児童生徒に対しての取り組みというもの、先ほども大臣からも若干御説明がございましたが、先ほどの説明と同じかというところの確認を含めまして、改めてお聞かせください。

○銭谷政府参考人 この指導中の児童生徒への指導でございますけれども、学校の立場から見た場合、指導として多いのは、一つは、担任の先生やスクールカウンセラーなどが家庭訪問を行いまして学業や生活面での相談に乗ったり、登校を促すための電話をかけたり、迎えに行くといったような家庭への働きかけを行うということがございます。
 それから、二つには、教育相談担当の教員あるいは養護教諭が専門的な指導に当たったり、友人関係を改善する指導を行ったりするなど、学校内での指導の改善を工夫するといったようなこともございます。
 それから、三つ目は、いわゆる教育支援センター、適応指導教室でございますけれども、ここや教育相談機関、医療機関、民間施設などと連携して対応に当たるといったような関係機関との連携を図ること、こういったことを継続して行っているというようなことがございます。
 不登校の児童生徒に対する各学校における取り組みの一層の充実化も図られますように、文部科学省としても施策の充実に努めたいというふうに思っているところでございます。

○城井委員 幾つか、今していただいている取り組みを挙げていただきましたけれども、今挙げていただいたような、家庭訪問にしても、あるいは学校内での指導にいたしましても、関係機関との連携にいたしましても、実際に報告が届いているだろう部分と、現場での運用段階での状況が若干異なるケースが大分出てきているということをお伝えしたいと思っています。
 例えば、保健室登校を禁止している学校が出てきているですとか、あるいは相談室自体を閉鎖しているという例もあります。ひどいところになりますと、ある国立の中学では、生徒と保護者を追い込むことでその生徒自体を転校させるというような事例すら、関東圏の学校ですけれども、出ております。
 そういったこともぜひ念頭に置いていただきながら、この指導中としている児童生徒の現状を、特に今後注視していただくようにお願いしたいと思います。
 続いて質問させていただきます。
 私は、そうした指導中の子供たち、不登校状態にある子供たちに対して、社会性をいかに担保していくかということがこの不登校の対策については非常に大事だというふうに思っています。学校こそがまさに社会性を身につける場であるというふうに考えるわけですけれども、学校へ行く、つまり登校を促すきっかけをつくっていく、専門用語で登校刺激と言うそうでございますけれども、この登校刺激について、大臣、お考えをお聞かせください。

○銭谷政府参考人 不登校の児童生徒への対応に当たりましては、主体的に学校復帰や社会的自立に向けて歩み出せるように、周囲が状況をよく見きわめて、そのための環境づくりの支援をするなどの働きかけをするということが重要だと思います。
 それで、先生御案内のように、平成四年に文部省で報告書を出したことがございまして、不登校の問題について、登校への促しは状況を悪化してしまうこともあるというふうにその報告書の中の趣旨が一部理解をされまして、働きかけを一切しない場合も、必要なかかわりを持つことまでも控えて時機を失してしまう場合があるということが指摘されたことがございました。
 それで、平成十五年の三月の文部科学省の報告書におきましては、やはり不登校児童生徒については早期の対応が重要であって、児童生徒の状況を理解しようとすることや必要な支援、いわゆる登校刺激ということもあるかもしれませんけれども、必要な支援を行おうとすることなく、ただ待つというだけでは状況は改善しないという認識が必要であるということが指摘をされたわけでございます。
 ただ、同時に、機械的な働きかけ、強引な登校への促しによって児童生徒やその保護者を追い詰めるということはあってはならないということも同じ報告書の中で指摘をされているわけでございます。
 こういったことを踏まえまして、文部科学省におきましては、地域において不登校児童生徒に対して適切な働きかけを行うとともに、きめ細かな支援を行うためのネットワークを整備する調査研究事業を実施しているところでございます。
 今後とも、不登校児童生徒の学校復帰や社会的自立に向けて適切な支援がなされるように努めてまいりたいと思っております。

○城井委員 私も、強引な刺激については賛成するものではないというところは賛同をいたします。ただ、先ほど、平成十五年報告書ということでおっしゃっておりましたけれども、ただ待つだけじゃだめだということ、ここの点は非常に大事じゃないかというふうに思っています。
 一部には、休めば登校に向けてのエネルギーがたまるというような考え方が世の中にはあるようでございますけれども、実際には、休みが長引けば、友達やあるいは先生など、外部との接触のきっかけを失いますし、何より学校自体にやはり行きづらくなるというところ、この点は大きいのではないかというふうに思うわけであります。
 実際に統計を見ますと、五月のゴールデンウイーク明けですとかあるいは夏休み明け、不登校の子が特にふえるというようなデータも実際にございます。これらの点を考慮いたしますと、やはり登校刺激、ある程度きちんと効果的な形でというところを基本に据えることが必要だと考えるわけであります。
 では、その点を踏まえながらになりますけれども、先ほどの報告書の部分、これまでの過去の部分はわかりました。現在を含めて今後ということになりますけれども、その登校刺激を含みます学校復帰につながる研究というものを今、それから、これからとなりますけれども、文部科学省として行っているんでしょうか。あるいは、行う予定があるんでしょうか。

○銭谷政府参考人 不登校の児童生徒の学校復帰に関しましては、先ほどちょっと申し上げましたけれども、地域において不登校児童生徒に対して適切な働きかけを行うとともに、きめ細かな支援を行うためのネットワークを整備する調査研究事業というものを、今私ども行っております。
 これは、適応指導教室、あるいは民間施設、NPO、さらには学校とか、いろいろな関係者がそれぞれの不登校児へのかかわりの中で不登校児の学校復帰について支援をしていく、そういうことについて、実践しながら調査研究をし、私どもとしてはそれを支援するという事業でございます。

○城井委員 ありがとうございます。
 以上のお伺いをいたしましたような状況認識を前提にいたしまして次に移りたいんですけれども、この不登校対策の主体をだれが担うべきかという点を考えていきたいというふうに思っております。
 今、不登校の対応に当たっている現場の主体、例えば教員、カウンセラー、臨床心理士、さまざまな方々のかかわりというものがあるというふうに承知をしておりますけれども、私は、今実際に現場で起こっている問題に、そうした教員を初めとした方々、現場の方々は必ずしも対応し切れていないのではないかというふうに感じているところであります。私なりに、これまで現場の方、さまざまな方にお話を伺いますと、状況はこんな感じではないかというふうに伺っています。
 学校現場では、心理学をやりたがる先生と生徒指導をやりたがる先生に分かれていて、なかなかその二つの要素を組み合わせて対応するということはできていないということが一つ意見として届いています。
 また、対策として評価をされていると言われております相談員制度、例えば埼玉県でございますさわやか相談員などは、実際には現場での孤立が目立ってきているという状況が出てきています。週三回の勤務形態では先生と一緒に働いている実感が非常に乏しい、また、先生と助け合うという場面が少ない、また、相談員自体にかなりのストレスがかかっているということがあります。子供と遊んでばかりいるじゃないかということで、教員が相談員をばかにするというケースも傾向としてかなり出てきています。相談員のストレスをどう解消するかという新たな問題が持ち上がっているような状況にもなっているわけであります。
 臨床心理士にしても、大学院卒の人であり、どちらかと言えば、病院向けの人材です。人数としても十分に配置ができていないのは御承知のとおりでございます。学校現場で我々が望む役割を本当に果たせるか、まだ微妙な状況にあるというふうに思うわけであります。とすれば、やはり百万人弱おります正規軍としての教員がいかに役割を果たすか、この点が非常に重要だと思います。
 この不登校に対応するために行う必要があると私どもが考えます教員の再教育、そして継続教育を文部科学省はどんなふうに考えているのか。これまでのように、カウンセラーなどいわゆる周辺の部分ばかりではなくて、この正規軍の活用を念頭に置いてもっと力を入れるべきだと考えますけれども、この点、いかがでしょうか。

○銭谷政府参考人 私も、不登校問題に大変熱心に取り組んでおられる関係者の方からお聞きしますと、学校にはさまざまな職員の方がいるわけでございまして、そういう方たち同士の間の関係づくり、子供とのかかわり合いなどについて、事例ごとに悩みも違いますし、また学校によっても体制がいろいろ違うということをお聞きするわけでございます。
 何といいましても、学校には、校長、教頭を初め学級担任、生徒指導、教育相談担当の教諭の方がいるわけでございますので、そういう教諭の方が日ごろから連携を密にして、一致協力して不登校児童生徒に当たるということが一つはやはり基本だろうと思います。それに加えて、養護教諭、スクールカウンセラー、相談員の方々がそれぞれの専門性を生かしてかかわっていただくということになるのかなと思っております。
 その場合、教諭の方々の再教育の問題でございますけれども、今お話がございましたように、教員はやはり教科の専門家でございますし、同時にいわば教育指導の専門家でもあるわけでございます。その教育指導の中には、生徒指導、教育相談、さまざまなものが要素として入っているだろうと思います。
 現在、文部科学省そして各都道府県、基本的に行っておりますのは、初任者研修あるいは十年経験者研修といったような教職経験に応じた研修の中に、この不登校の児童生徒に対する指導に関する内容を盛り込んだり、あるいは生徒指導、教育相談といった専門的な研修を強化するといったことで、教諭の方々の研修の充実に努めているところでございます。
 なお、こういった教諭の方々、もちろん教科指導、生徒指導と並んでこういう問題に対応するわけでございますので、専門的な知識が必ずしも十分でない部分は、それは否めないわけでございます。そういう点については、先ほど申し上げましたように、スクールカウンセラーや相談員、養護教諭との連携ということについてもよく研修を積んでいただく必要があるだろうというふうに思う次第でございます。

○城井委員 現場の教員の方々の専門的な知識というものがまだまだだという点は、私もそう思いますし、ちょうどいわゆる学習障害、軽度発達障害の子供たちがクラスにいた場合に、そこのクラスの教員がそれを見つけられたかというときに、やはりその基本的な知識の部分、そういった子供たちがどういう状況になっているかということについて知識がなかったがために見過ごしてきたというようなケースもありました。
 その対応と同様に、不登校についても、現場の教師に専門的な知識というものが欠如しておりますと、不登校問題そのものを認知できないという可能性があるのではないか。先ほど関係者との連携ということがありましたけれども、教員の数の方が圧倒的に多いという状況の中で、やはり教員のアンテナがどれだけ磨かれているかという点が非常に重要だと思います。そういう意味では、教員の能力の向上というものが急務であるというふうに思います。
 先ほど、研修についても触れられておりましたので、そのあたりを含めまして、教員の能力向上策についてお伺いしたいと思います。
 先ほど御指摘申し上げましたように、現場からの声として、教員が、例えば家庭訪問の技術、不登校の子供の心理を少しでも勉強すれば、家庭訪問の仕方は上達するという意見があります。現場での対応を充実させていくならば、教員の知識、経験の充実のための教員研修の充実は不可欠であります。
 しかし、先ほどお話にも出ておりました、現在の教員研修の現状をつぶさに見ておきますと、問題対処に資する実践的な研修というものがほとんどない。メニューとして存在していても、現場の教員まで残念ながらその知識、経験が伝わっていないという状況にあります。だからこそ、今の現場の教員が、結局最後のところ専門的知識が欠けているという状況はまだ解消されていないのではないか、ここに原因があるのではないかと私も思うわけであります。
 例えば、先日、不登校の子供にこれは聞いてはいけないという二つの質問があるということをある専門家から伺いました。なぜ休んだのか、これが一つ目です。二つ目は、休んだ間に何をしていたのか。しかし、この二つの質問、もし仮に現場の教員に知識と経験がなかったら、間違いなく、学校に出てきた子供に一番最初にする質問だというふうに思うわけであります。こういった最低限の基本の部分をどうやって現場の教師に伝えるのか、これは非常に大事だというふうに思います。
 今の教員の人数の増減を見ておりますと、あと数年もいたしますと、団塊の世代の教員がリタイアをして、今ふえつつあります経験に乏しい若手の教員が教育の現場にあふれるということになります。現場教師の不登校問題に対する認知度と解決能力を向上させる、そのためには、今の研修制度の中で、やはり現実的な対応として何かしら取り組まなければならないのではないか。
 一つ御提案を申し上げたいと思いますけれども、法定研修として位置づけられております初任者研修と十年経験者研修、この中に、先ほど申しました不登校対応の実践的な研修、とりわけ子供と相対したときの、対面時の実践訓練というものをもっと充実した形で入れる必要がある。これはかなり急がなければならないのではないかと考えるわけですけれども、この点、大臣の御所見をぜひお聞かせください。

○中山国務大臣 確かに、今委員が御指摘のように、不登校の子供に対して、なぜ休んだの、何をしていたの、専門的な知識がなかったらついつい聞きがちでございますけれども、そういうことは聞いてはいけないんですよね。
 そういう意味で、不登校の児童生徒に対してどういうふうに対応するか、まさに実践的な研修が大変重要である、このように考えるわけでございまして、今文部科学省におきましては、法定研修として都道府県が実施します初任者研修とかあるいは十年経験者研修についても、不登校等の児童生徒の指導上の諸課題への対応のあり方とか、あるいはカウンセリング等の内容を盛り込んだ研修のモデル例を各委員会に示すなどによりまして、その研修の充実を図っているところでございます。
 また、独立行政法人教員研修センターにおきましては、生徒指導上の諸課題に対応するための指導者の養成を目的とした研修を開設いたしまして、不登校への対応演習として事例研究による実践的な研修を実施するなど、不登校への適切な対応のための取り組みを充実させているところでございます。
 今後とも、初任者研修とか、あるいは十年研修を含め、不登校等の生徒指導上の諸課題への対応に対しては、実践的な研修の充実などによりまして、各学校において不登校の児童生徒への適切な対応が図られるように努めてまいらなければいかぬ、こう考えておるところでございます。

○城井委員 ありがとうございます。
 不登校をきっかけとした事件を未然に防いでいくには、やはり生徒指導ができる教師の存在がもっともっと必要だと思います。究極的には、その教師のセンスによるところが大きいのかもしれません。しかし、情と理でいえば情の部分で子供とつながることができるか、教師自身が持つ熱をその子供に伝えることができるかというところ、このところがやはり問題解決のポイントだと思うわけであります。たかが一人という教員の認識であったり、あるいは機械的な対応であったりというところでは、やはり温度差が目立ちます。問題発生にまたつながってしまうということになります。
 以上の認識に立って、ぜひ不登校対応、実践的な部分で取り組んでいただきたいと思います。そして、一人でも多くの不登校の子供を救っていただきたい、そのために力を尽くしていただきたいということを、心からお願いを申し上げたいと思います。
 時間が少しずつなくなってきておりますけれども、次にもう一点だけ別の案件についてお伺いしたいと思っています。奨学金、とりわけ大学にかかわる奨学金についてお伺いをしたいと思います。
 大臣所信でも奨学金の充実、述べられておりましたけれども、これまで奨学金、どちらかといえば、育英か奨学かという議論を進めて、そして金額の充実を進めるというところにかなり力点が置かれてきているのではないかと理解をしております。しかし、そうした取り組みの中で落とし穴があったのではないかという感を、非常に強く持つことが最近ございました。
 ある方からのいわゆる陳情、訴えであったわけでございますけれども、各大学、とりわけ今回の件は国立大学ということになりますけれども、国立大学への現在の日本学生支援機構の指導が本末転倒な取り組みになっているという現場の声が、私のもとに届いてきております。どういうことか、少し詳しく申し上げたいと思います。
 国立大学の奨学金の窓口が、奨学金貸与、すなわちこれは借金であります、この借金を勧める営業マンと化しているような実態があるという声が届いているんです。国から各国立大学に割り当てられている貸与枠を埋めるために、奨学金窓口の職員が、借りる必要のない学生に言ってお願いをして、わざわざ借りてもらっているというような現状がある。
 何でそんなことをしているのか、少々ばかげているのではないかと私も最初は思いました。しかし、少しずつ聞いてくると何となくわかってきましたのは、もし大学側が貸与枠を埋め切らなかったということになったら、次年度からの枠が減らされるのではないかという懸念を、その職員の方を含めてお持ちであるということがあるわけであります。
 そこで、この現場の声を踏まえてお伺いしたいんですけれども、実際に、貸与枠の充足率が低いと各国立大学への予算額、次年度予算額というものは減額をしてしまうんでしょうか。これまでにそうした判断、決定をしたことがあるのか、各国立大学の貸与枠の決定方法及びその運用について教えてください。

○石川政府参考人 奨学金の国立大学に対する貸し付けの状況等に対するお話でございます。
 奨学生の選考に当たりましては、効果的に事業を実施するために、独立行政法人の日本学生支援機構におきまして、一括選考をするというのではなくて、各学校からの推薦を最大限に尊重しつつ採用を決定するという仕組みをとってございます。具体的には、今委員からもお話ございましたように、各国公私立大学に貸与枠を配分するというやり方にしているところでございます。
 その配分の仕方でございますけれども、例えば、無利子奨学金におきましては、年度当初の各学校に対する採用数の配分につきましては、学校間の公平性を重視するという観点から、各学校の入学定員に応じた比例配分、これは五〇%のウエートを持たせております。これを基本といたしまして、そのほかに過去の採用実績、これが三〇%のウエートでございますが、それから各大学の元奨学生の滞納率あるいは返還の際の口座振替の加入率、このようなものも総合的に勘案いたしまして、貸与枠を配分しておるというやり方をとっております。
 その結果、前年度の実績数というようなものが当初の貸与枠の配分に影響するといったことは、確かに要素としてございますけれども、その点、希望者が推薦数に達しない大学があったとしましても、その不用分等につきましては希望者の多い大学に再配分をするなどして、適切な配分に努めているところでございます。

○城井委員 そうしますと、例えば、ある年に枠が足りなくなった、前年度から減ってきたがために足りなくなったという状況になったときに、学生支援機構に対して各大学の窓口から相談を申し上げた場合には、配分に関して柔軟な対応ということはしていただけるという理解でよろしいですか。

○石川政府参考人 各大学に対する配分につきましては、先ほど申し上げましたような考え方で、一応の配分枠というものを設定いたします。そういった意味で、その配分枠について、それぞれの大学で希望者が大変多くてそれを使い切ったという場合については、そのように対応させていただきますし、先ほど申し上げましたように、希望者が少なくて使い残すということもあるわけでございまして、さらに希望者が多かったりするような場合には例えば追加配分のケースとか、そういった場合にお申し出いただいて、枠の余裕があればまた改めて奨学金を差し上げるというようなことは可能かと思っております。

○城井委員 先ほど御指摘申し上げましたように、一方で国立大学のように、余った枠を営業してでも埋めさせるというような本末転倒な取り組みがあるという声が伝わってくる部分がある一方で、私立の大学は枠が足りずに希望者殺到で四苦八苦しているというふうな声も伝わってくるわけであります。
 実際に、平成十五年度の無利子奨学金、国公立大学の学生への貸与率が学生全体に対して一五・九%であるにもかかわらず、私立は六・一%であります。学生数の比率は、同じ年の計算でも国公立が二六%、私立が七四%、圧倒的に私立が多いという状況の中で、どれぐらい私立の学生の希望がかなえられているかというところ、この点をぜひ踏まえつつ、今後の配分枠を含めての検討をぜひしていただきたいと思っております。
 時間がなくなってきておりますけれども、もう一点だけお伺いしたいと思っております。
 先ほど御指摘を申し上げました点に加えまして、もう一つ気になっている点があります。それは、延滞債権の問題でございます。平成十五年度で三カ月以上返還を延滞している者に絞っても、一千五百六十四億円にも達しているということを聞いております。この質問をする前に、会計検査院の方からも、平成七年度分決算と平成十三年度分決算の二回にわたって、旧日本育英会に対して延滞債権に対する指摘をされているということを、私も伺っております。
 しかし、その点を踏まえながらぜひお伺いしたいんですけれども、それだけ延滞債権が伸び続けているという状況の中で、しかも会計検査院から二度にわたる指摘を受けるという状況の中で、これまでのいわゆる返還金の回収方法の改善というのに本当に努めてきたのか、それが十分だったかというところを検証しなければならないと思っています。例えば、電話での督促ですとか、あるいは外部への委託ですとか、さまざまな改善策を講じてきたということは承知しておりますけれども、そうした回収方法を決めるに当たっても、事前の調査が極めて不十分だというふうに言わざるを得ないと思っているわけであります。
 最近、特に、不況による就職率の悪化あるいはフリーターがふえてきているということによりまして、返済を猶予してほしい、あるいは返済ができないという方がふえているという中で、実際に回収を行っていますけれども、聞くところによりますと、そうした貸付先あるいは連帯保証人の資産状況、あるいは経済状況を把握していないというふうに聞いています。特に、連帯保証人の保証能力について調査をしていないと聞くわけですけれども、保証人の保証能力を調査しなくて保証人という制度が成り立つのかという基本的な疑問に立ち返るわけですけれども、最後にこの点をお伺いしたいと思います。お願いいたします。

○斉藤委員長 石川高等教育局長。
 質疑時間が過ぎておりますので、簡潔にお願いいたします。

○石川政府参考人 返還金の回収に努めることは大変重要なことだと思っております。
 今お話のございました保証人に関する情報でございますけれども、奨学金の申し込み時に提出することになっております確認書におきまして、本人はもちろんでございますが、連帯保証人の氏名、住所、電話番号、それから連帯保証人の印鑑証明書の提出を求めておりますし、また、貸与終了に当たって提出することになっております返還誓約書におきましても、連帯保証人、保証人の住所、電話番号、それから勤務先、勤務先の電話番号、それから所得証明書等の提出を求めて、その辺の情報をしっかり把握して行っているところでございます。

○城井委員 時間が参りましたので終わりますけれども、今お聞きしましたような状況ではまだ足りないのではないかと思っています。貸付先や連帯保証人の資産状況、経済状況、そして恐らく変わることも予想される貸与終了後の就労先、現在の就労先というところまできちんとつかんだ上でなければ、その回収先が現在どういう状況にあるかというところをしっかりと把握した上での回収にならないんではないかと思いますので、その点も踏まえていただきながら、今後の貸与業務とそして回収業務、ぜひ取り組んでいただきたいと思います。
 このことをお願いして、私の質問を終わります。ありがとうございました。

(後文略)

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